6月4日(水):
火星での大気の点滅を初めて観測 (メイブン)
NASAのメイブン(MAVEN:火星大気揮発性進化)ミッションは、10年間の調査を経て、火星の水の損失の歴史に関する長年の疑問に答えるのに役立つ可能性のある、スパッタリングと呼ばれる、とらえどころのない大気脱出プロセスの直接観測を初めて報告した。
科学者達は、豊かな証拠を通して、数十億年前に火星の表面に水が存在していたことを知っていたが、「水は何処に行き、また何故失われたのか?」という重要な疑問に、今だに問いかけている。
火星の歴史の初期に、火星の大気は磁場を失い、その大気は太陽風と太陽嵐に直接さらされるようになった。大気が侵食され始めると、液体の水は地表で安定しなくなり、その多くが宇宙に逃げた。しかし、かつては濃厚だったこの大気は、どのようにして失われたのだろう? スパッタリングがそれを説明できるかもしれない。
スパッタリングは、原子が高エネルギーの電荷粒子によって大気からノックアウトされる大気脱出プロセスである。
科学者達は、以前、このプロセスが起こっていたという証拠の痕跡を見つけていたが、このプロセスを直接観察したことはなかった。これまでの証拠は、火星の上層大気での、アルゴンの同位体の軽重を調べた結果である。軽い同位体は重い同位体よりも大気中の高い位置にあり、火星の大気中の軽い同位体は重いアルゴン同位体よりもはるかに少ないことがわかった。これらの軽量同位体は、スパッタリングによってのみ除去できる。
スパッタリングを観察するためには、宇宙船に搭載された3つの機器(太陽風イオン分析装置、磁力計、中性ガス・イオン質量分析計)から、適切な場所で適切なタイミングで同時に測定する必要があった。さらに、チームは、観測に何年もかかる低高度で、この惑星の昼の側と夜の側全体の測定が必要だった。
これらの機器からのデータを組み合わせることで、科学者達は、太陽風に関連するスパッタリングされたアルゴンの新しい種類のマップを作成することができた。このマップは、高エネルギー粒子が大気中に衝突してアルゴンをはねた、正確な場所での高高度でのアルゴンの存在を明らかにし、リアルタイムでのスパッタリングを示している。研究者達は、また、このプロセスが以前の予測よりも4倍高い速度で発生しており、この速度が、太陽嵐の間に増加することも発見した。
スパッタリングの直接観測は、太陽の活動がはるかに強かった火星の初期の歴史において、このプロセスが大気の損失の主要な原因であったことを裏付けている。
これらの結果は、火星の大気の喪失と火星の水の歴史を決定する上でのスパッタリングの役割を立証している。
この知見は、火星表面に液体の水が存在することを可能にした条件と、それが数十億年前の居住可能性に及ぼす影響を科学者達が理解する上で極めて重要である。
<ひとこと>: メイブン(MAVEN)は、かっては濃い大気を有していたと思われる火星が、どのようにしてその大気を失ったのかを調べることを主目的として送られた軌道船です。ヨーロッパ宇宙機関のエクソマーズガス追跡軌道船も同様な目的で送られています。火星がどのような原因で大気を失ったかを調べることは、かって、火星に生命が存在したかを知ること以外にも、我々の地球の生命の維持にも結び付く重要な調査です。
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May 29, 2025